株式会社吉田印刷所

特別対談 非常識が企業を進化させる 

株式会社吉田印刷所 代表取締役社長 吉田和久氏

日本アグフア・ゲバルト 代表取締役社長 岡本勝弘

 

 2018年末に紙の値上げが製紙メーカーから一斉に発表され、さらにインキメーカーからの値上げ表明も重なり、印刷会社を取り巻く経営環境は非常に厳しくなってきている。

 その中で「フレッシュプリント」という独自の印刷・営業手法で利益を上げているのが株式会社吉田印刷所(本社/新潟県五泉市、吉田和久社長)だ。フレッシュプリントとは、印刷物の価値向上を目的とした印刷・営業手法であり、クライアントの価値を創造するだけでなく、印刷物や印刷資材のムダを排除するものである。

 吉田印刷所は、業界に先駆けた印刷通販ビジネスの開始や乾燥促進印刷による薄紙印刷の実現、また薄紙を使った新規ビジネスの開発など、今まで多くの差別化戦略を展開してきた。その中でもフレッシュプリントは吉田印刷所の印刷技術力、システム開発力、そして営業力を駆使した戦略であり、いまの厳しい印刷業界の中で勝ち残っていく強力な武器となっている。

 吉田社長は言う。「非常識が企業を進化させる」と。

 フレッシュプリントの取り組みは、業界から多くの賛同者もあり、2016年8月には株式会社吉田印刷所(本社・新潟県五泉市、吉田和久社長)と日本アグフア・ゲバルト株式会社(本社・東京都品川区、岡本勝弘社長)によって「ムダの無い印刷物作りを目指して」をコンセプトとした「フレッシュプリントコンソーシアム」が発足。現在も印刷会社を中心に会員数は増加しており、印刷機メーカーからはハイデルベルグ・ジャパン、PODメーカーからはコニカミノルタ、キヤノンマーケティングジャパン、リコージャパンが特別賛助会員として加わり大きなコンソーシアムへと成長している。

 

 今回はフレッシュプリントコンソーシアムを一緒に立ち上げ、乾燥促進印刷実現のために水のきれる現像レスプレート「アズーラ」を提供する日本アグフア・ゲバルト株式会社の代表取締役社長 岡本勝弘氏と株式会社吉田印刷所の代表取締役社長 吉田和久氏を招き、「紙やインキなどの資材高騰で今後さらに厳しくなるであろう印刷業界を印刷会社はどのように勝ち残っていくべきか」をテーマに対談してもらった。

 

 

印刷技術の追求から生まれた経営改革

岡本 2019年は印刷資材の高騰により、製造プロセスを見つめなおし、ムダやムラなどを排除してコスト削減へ取り組む必要があると感じています。今回の対談で、この厳しい時代をどのように勝ち残っていくかのヒントを提示できればと思っています。フレッシュプリントについては、以前より様々な場所でセミナーなどを行い業界に向けて情報発信してきましたので、今回は原点に戻って、フレッシュプリントを実現に導いた吉田印刷所の経営、技術的、また営業的な取り組みなどについてお話をお聞きしたいと思います。

 ちなみに吉田印刷所さんは日本国内の印刷会社の平均利益よりも多くの利益をあげているとお聞きします。どのような経営でそのような多くの利益が上げられる体質になっているのかも含めてお聞きしたいと思います。

 

吉田 今年は印刷資材の値上げがあり、印刷会社を取り巻く環境が大きく変化しようとしています。印刷会社は本当に悩んでいると思います。

 私は昔から強いコスト意識を持って経営してきました。今まで様々な取り組みを行ってきましたが、会社としてひとつの大きな転換期となったのは1999年に開始した油性印刷機での乾燥促進印刷です。当時はブロッキング防止パウダーを疑いもなく100%全開で使用する「ごくありふれたどこにでもある普通の印刷会社」でした。とくに問題なく印刷機も稼動しており、一般的な印刷品質を出せるという意味では満足していたのかもしれません。

 しかし、印刷品質の向上は見込めない、ヤレ紙、パウダーを含めたムダも多い。乾燥待ち時間も長いといった状況で、これが印刷会社の常識だと思っていたのです。恐らくこういった印刷会社は日本国内に多数存在すると思います。

 

 

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岡本 基本的に受注産業といわれる印刷業界ですから、クライアントからの仕事の依頼に対して要望を聞き、その通りのものを作ります。クライアントからクレームもなく、納期に間に合えば良しという考えで、現状維持が常識になっているのかもしれません。

  

経営者の強いリーダーシップが企業を進化させる

 

吉田 印刷会社のその常識が、会社を成長の阻害要因にもなっているのだと思います。私は“非常識”が企業を進化させると考えています。

 弊社は、多くの“非常識”な取り組みで現在の経営基盤を作ってきました。弊社が取り組む乾燥促進印刷においては、印刷資材の見直しを行い、とくにプレートに関しては乾燥促進印刷において非常に重要な役割を担う資材ですので、私自身が慎重に検討を行いました。資材の変更については、現場のオペレーターは嫌がるものです。現場のオペレーターは使い慣れたもの、刷りやすいものを選択しますから。しかし、これが経営にとって良いものかどうかは疑問です。

 弊社では私の経営戦略のもと、私自身がプレートを含めた資材の採用の判断を行っています。プレートに関して言えば、検証に検証を重ねた結果、最終的に吉田印刷所が目指す乾燥促進印刷には水がきれるアグフアのアズーラがベストでした。  

 

岡本 プレートの変更については経営者の強いリーダーシップが必要だと感じます。資材の選択にあたり、経営者が内部の衝突を恐れて、部下の好きな物を使わせたがるのではないでしょうか。現場の優先順位と経営の優先順位がいつも同じとは限りません。今年の紙やインキの値上げのように、取り巻く環境はどんどん変化していますので、経営のプライオリティーも変わっていくと思います。先ほど吉田社長が言われた、今までの“常識”を通していては変化もなく勝ち残れない企業体質になるのかもしれません。

 乾燥促進印刷の話がでましたので、そのメリットについて改めて具体的にお聞きしたいと思います。というのは、今年は製造コストの増加によって印刷会社の経営が圧迫されていく中で、多くの印刷会社が変革に向けて動き出す年になるのではないかと思っています。乾燥促進印刷の取り組みが、今後の印刷会社の経営改革のヒントにでもなればと思います。

 

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乾燥促進印刷がもたらす経営効果

吉田 まず、乾燥促進印刷のロジックはいたってシンプルであり、オフセット印刷技術の原理原則を徹底的に突き詰めることにあります。それは、水を極限まで絞ることです。

 水を極限まで絞ることで、その先に経営への大きなプラス効果が見えてきます。具体的に言いますと、まず挙げられるのが印刷品質の向上です。水を絞ることでドライダウンによる濃度低下を抑えることができ、濃度が非常に安定します。そしてパウダーの過剰使用による印刷のざらつき感も抑えることができ、インキに艶が出て彩度が向上します。

 そして水を絞れば、当然のことながらインキ使用量を減らすこともでき、乾燥が速くなりますので、印刷物を短時間で後加工へ渡すことも出来ます。どんてん印刷による効率化も図れ、オペレーター1人当たりの生産性は高まります。

 パウダー使用量の削減については、パウダーコスト削減以外にも大きなプラス効果があります。それは、印刷工場の環境改善です。弊社も乾燥促進印刷を始める前までは、後加工機のローラーにまでパウダーが付着し、製本機などで紙の搬送トラブルが出ることもありました。こうしたパウダーの問題で、恐らくほとんどの印刷会社は製版設備、後加工設備は印刷機を設置している場所とは違う場所で運用していると思います。弊社は乾燥促進印刷によってパウダーを削減し、製版、印刷、後加工すべてを仕切りのないひとつのフロアで運用しています。CTPを印刷機の隣に設置してあるというのは、この業界では非常に珍しいのではないでしょうか。

 この全生産設備ワンフロアー化は製造プロセスにおける社員の動線を非常にシンプルにしました。人や物の動きを最小限に抑えたレイアウトを実現したのです。

 

岡本 水を絞るというオフセットの原理原則を突き詰めていくと、見えてくる多くのメリットがあります。弊社も吉田社長とお付き合いさせていただいてから水が絞れるアズーラで速乾印刷をスタートさせ、全国の多くの印刷会社で採用が決まりました。ただ単純に手間がかからず、網点が安定する現像レスプレートというだけでなく、浅い砂目構造だから実現できる水を絞った印刷がもたらす効果を認めていただいた証拠だと思っています。

 弊社では、アズーラの速乾印刷の効果を最大限に引き出すために、印刷コンサルチームを立ち上げました。単なるプレートの提供だけでなく、その効果をしっかりと出すために印刷機の最適化もお客様と一緒になって我々プレートメーカーがお手伝いさせていただく体制を整えました。

 

吉田 アグフアさんが取り組んでいるように、乾燥促進印刷の効果を最大限に引き出すには印刷機のメンテナンスは必要不可欠です。水を絞っても問題を起こさない機械の整備が重要だということです。乾燥促進印刷にはUV印刷機を導入するという手段もあるかもしれませんが、投資も非常に大きく、コストも高いという課題があります。このような投資ができるくらい余裕があればいいですが、この厳しい業界で資金的に余裕のある印刷会社はそれほど多くないと思いますので、既存の印刷機でスペック以上の能力を発揮させることに注力することが大事だと思っています。それには自社独自の印刷技術を高めることが重要です。その結果、油性印刷機でもしっかり独自の技術でメンテナンスを行えば満足のいく乾燥促進印刷ができると思っています。

 

岡本 吉田印刷所さんでは13年目を迎えた4色機が新台と遜色ない状態で活躍しています。アズーラに加えて、機械をしっかりメンテナンスしているからこその結果ですね。

弊社のお客様でも10年以上経過している印刷機が見事に速乾印刷を実現した事例もあります。大きな投資が必要なく、印刷機の年数に関わらず実施できることが、速乾印刷の良いところですね。

 ところで吉田印刷所さんでは印刷機の機長という役職がないと聞いています。機長なしで印刷機のメンテナンスは可能なんでしょうか。

 

非常識への取り組みが変革へ向けた行動の基本姿勢

吉田 はい。弊社には機長という役職はありません。それでもメンテナンスは問題なく行っています。オペレーションは8色機でも4色機でも基本はワンマンオペレーションです。2台の印刷機をオペレーションするスタッフと、それをサポートするスタッフの4人でチームを編成しています。よってチームリーダーは存在しても、チームリーダーもローテーションを組んで1週間くらいの持ち回りで交代しています。というのも、弊社は多能工化を推進しており、この人でなければ仕事が回らないなんてことは今の時代にはありえないと思っています。弊社では製造部門の横のつながりも非常に大事にしています。多くの印刷会社では、部署ごとの運営を行っており、製造工程における横のつながりは非常に少ないと思います。CTPにおいては、弊社も以前は印刷の現場から離れた環境でCTPを運用しており、オペレーターは印刷に関してそれ程深い見識はありませんでした。

 しかし、せっかく乾燥促進印刷によってパウダーを減らし、印刷工場環境を改善して製版、印刷、後加工をワンフロアオペレーションにしたのですから、各部門の垣根をとってさらなる効率化をはかりました。印刷オペレーターは刷版の出力もできますし、後工程の製本サポートも行います。印刷のサポートにはCTPや製本作業者が付けるようになっています。もしかしたら、このようなことは他社にとっては非常識なことかもしれません。しかし、我々は、非常識なことを自社にとって当たり前とすることが変革へ向けた行動の姿勢だと考えています。

 

岡本 吉田印刷所さんの多能工化は、乾燥促進印刷による印刷現場の環境改善がもたらしたワンフロアオペレーションの結果だと思いますが、CTPにおいてはアズーラをご使用ですので、ケミカルを使った現像機の手間などもなく、網点も安定するので刷版は誰でも簡単に出力できるようになっていることも大きいですね。

 多能工と言えば、吉田印刷所さんの営業の方は印刷現場も数年経験し、印刷技術に非常に明るいとも聞いています。

 

吉田 以前、営業部隊を印刷現場の中に数年入れたことがあります。彼らが現在「かたりべ」となり、お客様先で吉田印刷所の良いところを語って回っています。印刷に詳しい彼らがお客様先に話しに行くと、言葉に信憑性が生まれ、内容に重みが増します。結果、お客様がきっちりと理解して応対してくださる人間関係が生まれます。

 

「厄介」と思う仕事の先にあるビジネスチャンス

 

岡本 吉田印刷所さんでは乾燥促進印刷という技術を営業展開にもうまく活用されています。「かたりべ」の方たちが提案型営業となり、フレッシュプリントやライトプリントなど新しい商品の開発や提案にも力を入れていますね。

 フレッシュプリントは小口分割印刷であり、オフセット印刷で言えば、小部数を分割で印刷することから、刷り出しのヤレなど非常にコストもかかり手間のかかる仕事だと思います。ライトプリントビジネスにおいては、0.02mmの超薄紙をオフセット印刷で印刷するという非常に難しいことにチャレンジされています。

 

吉田 これはすべて吉田印刷所が印刷業界で生き残っていくために行っていることです。難しいこと、厄介なこと、それをちゃんとお客様に理解していただき、商品として提供できた印刷会社が生き残っていけるのだと思っています。

 フレッシュプリントは、お客様先で廃棄される印刷物のムダまでを排除する仕組みです。印刷物が使わずに捨てられる理由は、記載されている情報が陳腐化するからです。情報の鮮度を保つ仕組みをお客様へ提案し、フレッシュプリント(情報更新型小口印刷)が商品化されました。今では、「この仕組みを導入しないで従来どおりだったら、相変わらずムダをいっぱい作って、それが当たり前だと思い続けていただろう」と多くのお客様が仰ってくださっています。

 ライトプリントは、印刷工程で水を究極まで絞らなければ実現できない0.02mmの超薄紙印刷です。近年、紙の値上げもあり、物流コストも上がっている中、この薄紙の印刷はビジネスチャンスがあると考えています。

 フレッシュプリント、ライトプリントともに、弊社の乾燥促進印刷がベースとなったビジネス展開であることは言うまでもありません。

 

勝ち残るための経営方針

岡本 水がきれるアズーラを活用した乾燥促進印刷で多くの経営改革を実践している吉田印刷所さんですが、今後の経営方針や取り組みなどはどのようにお考えでしょうか。

 

吉田 経営者として昔から大事に思っていることがあります。それは、「片手はいつも空けておけ」です。私は常に新しい物を掴み取るスタンスで経営を行っています。両手いっぱいに今までの仕組みを抱え込んでいて、どうやって新しい物を掴み取ることができるのでしょうか。新しいビジネスを掴みたいのなら、今もっている仕組みや仕事を精査して手を空けることが大事です。私は父親から会社を受け継いだ後、その当時あった設備をすべてなくして総合印刷の看板を下ろし、訪問営業活動を廃止、そして数多くあった営業品目も集約しました。もちろんお客様数も減らしました。言い方が違うかもしれませんが、私が言う「片手はいつも空けておけ」というのは、今で言う「選択と集中」なのかもしれません。それがあるからこそ、乾燥促進印刷に取り組むことが出来、また、コスト削減、品質向上といった効果も得られ、フレッシュプリントやライトプリントのような新規ビジネスの開発もできたと思っています。今思えば、当時の選択と集中を行っていなければ、吉田印刷所はなくなっていたかもしれません。

 フレッシュプリントもライトプリントも技術的に非常にやっかいな道です。しかし、この印刷業界はやっかいな道しか勝ち残る道はないと思っています。昔は良かったかもしれませんが、今の印刷業界は楽して仕事ができる状況ではありません。現在のマーケットで他社がやっていることを真似ても意味がありません。価格競争に自ら入り込むだけです。印刷会社として利益をあげていくには、新しいマーケットを作っていく「やっかいな道」に自らが飛び込んでいくしかないと思っています。

 弊社の経営の基盤である乾燥促進印刷は弊社だけのものではありません。乾燥促進印刷は大きな投資をすることなく取り組むことができ、コスト削減や現場環境改善に大きな効果をもたらします。これからの厳しい印刷業界を勝ち抜くためにまず取り組むべきことだと考えています。